pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

『髪結いの亭主』

 大学生の時、映画館のバイトをしていまして、その時、一番小さな(数十人席)の劇場で、二週間ぐらいしかかかっていなかった映画です。職員の人の評価や映画誌の評価がやたら高かったのを覚えていて、ずーっと機会を狙っていましたが、WOWOWで放映していたので録画して、そして昨夜見ました。

 

髪結いの亭主 デジタル・リマスター版 [DVD]

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  1990年フランス作品。一時間二十分ぐらいです。十二歳の時に行きつけの床屋の女性に恋して以来、結婚するなら床屋の女性と決めていた男が、四十代になって一目ぼれした床屋の女性の結婚。夫婦生活を送る、というもの。

 初恋の人が、どう見ても二十代後半の我儘ダイナマイツバディ女性。しかも体臭キツイって、なんというマニアックな男ですが、結婚のいきさつも、出会って床屋で頭を刈って欲しいといい、予約があるから三十分後に、と言われ退散。ストーカーのごとく見ていたけど客はこないので二十五分後に行き、頭を刈ってもらい、終わったとこで「結婚してください」え?まぁ、返事はしないわな、当然。

 悶々とあれこれ考える男は三週間後に、やっぱり客として床屋を訪れ、今度は何も言わなかったのですが、お会計の時に「からかったんですか?」と女性に言われて、本気と答えて、お互い惹かれるものがあったから結婚・・・え?

 はぁ波長が合ったのでしょうね。ほぼ趣味のない、おしゃべりも好きでない男の唯一の趣味らしいものは、中東風の音楽に合わせて、自己流アラビアンダンスを踊る事で、ささやかな身内だけの結婚式で、男は中東風音楽をかけ、自己流ダンスを披露し、男の兄夫婦や床屋の前オーナーが、ぽかあんと口を開けたままなのに、彼女だけは嬉しそうに笑い、一緒に踊るのです。

 それからの二人は床屋の店内だけで、いちゃいちゃしまくり。独身時代は白衣で通した彼女は、ほぼ毎回異なるブラウスやスカートを纏い、夫の視線を意識した体勢で、太ももや胸元を見せ、夫の方も妻から目が離せず、客がいない隙、客がまどろんでいる隙をつかまえて性愛関係でいちゃつくという。徹底して性愛なのですよ、二人の関係は。

 だがその関係も十年が過ぎた頃、三つのエピソードによって終わりを告げます。一つは熱烈に妻を愛しながら彼女を怒らせる(たぶん浮気)事をして出て行かれた夫の話。二つ目は老境の前オーナーが介護施設を死の世界だという話。三つ目は常連客同士の何気ない死に関する論争。

 その直後、夕立の中、店内で激しく愛し合ったあと妻は買い物をすると行って飛び出し、増水して濁流となった川に身を投げます。愛する夫に飽きられたり、老いた姿を見せたり、死別する事は耐えられないから、愛されたままで死ぬ、という遺書を残して。

 ラストシーン、夫は妻の死を受け入れられず、床屋の店内でクロスワードをしながら事情を知らない外国人客(たぶんアラブ系)の男性にシャンプーだけした後「家内が戻りますから」と。

 二十代で見ていたら何のことやら、でしたね。徹底した性愛関係で、愛されなくなるのを恐れて自殺するなんて・・・そういう関係もあるよね、と理解するには二十八年(たぶん日本公開は91年とかだと思うけど)かかったと思うのですよ。

 本編が徹底して艶笑チックに描かれているので、余計に重く感じるのです。どう見ても男と女の年齢差が二十歳近くあるので、余計に女の方は自分が愛される理由を考え続けていたのかも知れませんね。

 評価が高かった意味が解った気がします。