pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

映像でも見たことはない

 塩野七生さんのエッセイだかなんだかで、この人の事が書いてあった気がして、いずれ読もうと思っていたのですが、評伝は現在のところ二つしかないそうで、本屋の煽り文句で覚えていたものですから、図書館で借りました。

 

高坂正堯―戦後日本と現実主義 (中公新書)

高坂正堯―戦後日本と現実主義 (中公新書)

 

  『現実主義』の国際政治学者で、この方の晩年でTV出演されていたのを見たか、見なかったか・・・覚えていないです。京大教授で自民党の佐藤、三木、大平、中曽根政権のブレーンであったそうで、学生運動華やかなりし(つまり知識人=マルクス経済学支持という意識のあった時代)頃に『右巻』と学生から糾弾され、しかし討論で論破してしまう人だったらしいです。もっとも翌日、この方の研究室は言い負かされた学生たちに散々荒らされていたらしく、「卑怯な連中や」とこぼしたりとかなんとか。

 ああ、沖縄とか安部打倒とかデモっている人たちの若かりし頃ですからね。さもありなんって感じですか(つまり品位とか知性とかが感じられない)

 吉田茂の評伝とかが有名ですが、いわゆる『吉田ドクトリン』というものを体制論にするな、と言っています。吉田茂本人も経済復興を優先させた為の非武装みたいなところがあって、懐が潤えば再武装する気満々だったともいいます。

 結局のところ国際関係とは、力と経済力と価値の三本柱の釣り合いであり、力を否定する事は危険であると、経済発展した80年代から改憲を論じています。武力なくして中立どころか独立を保つなんて、ナンセンスだと。しかし2000年代の民主党政権時代までは護憲が優勢な世論でしたが、民主党政権のがっかり感と、その後の安倍政権の浮遊感から改憲を主張する勢力は過去にないほど盛り上がっているように見えます。また『日本は金だけ』という時代からするとネットの普及によるとはいえ、新旧の日本文化、日本的考え方というものの世界へに浸透は著しく、現在の日本は高坂さんの唱える三本柱のうち、二つまでは発信していける国になったような気がします。

 この方自身、まだまだやりたい事があった六十代に末期癌と診断され、あまりにも早すぎる死というのが関係者の感想だったようです。著者は直接高坂さんに指導してもらった事はないにせよ、学生時代に二度ほど直接会う機会があり、また研究者となってからは高坂さんの業績が大変参考になったともいい、評伝にしてはかなり晩年の記述が思い入れが入ったものになっています。

 ちょいと高坂さんの著作物を読んでみたいですね。