pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

コレを持ち帰りたくない

 暇に任せて読了はいいけれど、大変重い本なので自宅に持ち帰りたくない。ので日記にします。

 

十字軍国家の研究―エルサレム王国の構造―

十字軍国家の研究―エルサレム王国の構造―

  • 作者:櫻井 康人
  • 発売日: 2020/06/24
  • メディア: 単行本
 

  比較的新しい本が読めているのは、図書館に訪れる人が少ないからかしらん?自分にはいいことだけど。

 十一世紀から十三世紀にかけて存在した『十字軍国家』の運営を中心に論じています。だいたい領域国家としてはサラーフアッディーンによって滅ぼされ、リチャード獅子心王の奮戦で沿岸都市は確保できたけれども、まぁ残りもの感がぬぐえませんが、この本ではエルサレム失陥までの百年と、それ以後の最終的にアッコンが陥落して拠点をすべて失うまでの百年という区別を行っています。

 最初の百年で領域国家として支配を確立していく様を描いています。都市部を虐殺しても農村はそれなりに温存した十字軍は、農村の直接支配を行い、また現地人を支配階層に組み込んでいく努力を行います。十字軍は達成感に包まれて帰還する者が多く、国家を運営する為の人的資源が足りなかったので。

 しかし一世代経過した当たりで西方から補充人員みたいな形で、それなりにカトリックの人々がやってくると、現地人を支配階層に取り込む努力は減り、農村支配は間接的になりがち。

 聖地防衛国家として形成された国家なので軍司令官としての国王の資質が問われる訳で、サラーフアッディーンの政戦能力に圧倒されれば、実効支配は失われてしまいます。それでも残された土地を運営する為に努力は続けられますが、国王が在地せずヨーロッパの君侯が兼ねる形になると、地元の立場とヨーロッパの事情が対立。それが激しくなり、ますます領地支配は乖離していき、孤立化が深刻化し、ヨーロッパの援軍はカトリック以外は虐殺するし、つまり支配民の心が離れていくように作用して、ついに消滅という。

 政治や軍事の動きばかりで十字軍国家の歴史が語られる事が多かったので、こういう経済的な事績を語る本に出合うと、新しい知見に巡り合えて楽しいですね。

 また、後期の百年も都市という点のみではなく、その周辺の農村の支配が存続の鍵を握っていた事は確かであり、その支配が崩壊してしまった時が十字軍国家の死亡証書のサイン時と思いましたね。

 あ、ちょっと千字に足らなかったかしらん?まぁいいか。