pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

返却したばかりなので

 忘れないうちに書いておこうと仕事中に・・・暇なんです、はい。

 

ハンニバル戦争 (中公文庫)

ハンニバル戦争 (中公文庫)

  • 作者:佐藤 賢一
  • 発売日: 2019/01/22
  • メディア: 文庫
 

  読んだのはハードカバー版です。佐藤賢一さんの作品に登場する主人公男性キャラはだいたい『負け犬』属性なのですが、この本の主人公はスキピオ・アフリカヌス・・・つまり第二次ポエニ戦争ハンニバルに勝利した男なのですが、ええ、やっぱり『負け犬』属性でした。想像できなかったわぁ。塩野七生さんの『ローマ人の物語』に登場するスキピオ・アフリカヌスのイメージでいるので、御曹司的な苦労を積んだ少しばかり才気ぱしった、しかし人好きのする人物という風に思い描いていたので、まぁ、でも、自信を持っている→へし折られる。再起する→へし折られる。奮起する→窘められる。でもめげない→やったぞ。でもまだまだ。やったぞ!!でも勝ち切れていない。やったぞ!!!!でも・・・この恩知らずどもめ・・・最終的に勝利するのは凡夫か。という流れが、なるほどそういう処理なのね、と。

 ハンニバルにしても戦争のきっかけがローマの卑怯な振る舞いに怒りを覚えて、という比較的青臭い理由にしています。

 確かにハンニバルという男に感情移入できる日本人はそうそういないでしょうね。まず世界史で勉強してもあっさり触れるだけだろうし、現在でも士官学校で必ず教わる(と三十年前は言っていた。今はどーなんだろう?基本形だから必ず勉強すると思うけど)カンナエの戦い。つまり包囲殲滅戦を完成させた男で戦史に燦然と輝く人なのですが、日本人にとっての『名将』って名人芸の戦術家、戦略家ではなく、なんか自分が好きな戦上手な人が『名将』って言う風潮があるからなぁ(個人的な偏見です

 ハンニバルの個人的エピソードって僅かに兵士たちと同じようなものを食べ、同じような天幕で休み、行軍中の小休止で木陰で横たわって休んでいる彼を邪魔しないように、彼の部下たち、兵卒は、音をたてないようにしていた、っていう、なんかこう、じんわりと響く人間ドラマが一つあるだけなんですよね。

 自分はこれだけでも優しい人間関係を感じ取れて嬉しいのですが。後はザマの戦いで十七年間一緒に戦い続けた子飼いの軍勢が敗れた時、抗戦を諦め、カルタゴ元老院で徹底抗戦を叫ぶ議員を荒々しく止めて和睦を主張した、とかね。

 軍隊は一人では成り立たない。気心が知れたスタッフ、部下、そういった人々がいなければ戦う事が出来ない。

 その意味ではこの小説、ハンニバルに学び、ハンニバルの戦術を真似る事で最終的にハンニバルに打ち勝つスキピオ・アフリカヌスが、どうやって子飼いの部下を始めとして同僚たちに、その流儀の有効性を、解らせていく過程が肝なのかも。新しい戦術の有効性を理解させるって、ものすごく大変ですもの。この人についていけば間違いないと納得していないと、あの人がやる事だから従うと、そういう信頼がないとできませんからね。

 でも、確かにハンニバルは客死し、スキピオ・アフリカヌスも政治的に失脚してほぼ同じころ亡くなったけど、そこで小説を終わるのは、やっぱり佐藤賢一さんが『負け犬』の物語が好きだからなのかなぁ。