pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

故亡き事ではない

 

 

 現代の戦術にも通じる、大戦中の各国軍の編成、運営、戦術に関する入門書です。歩兵、機甲部隊、砲兵、応用編みたいな感じの章立てです。

 歩兵というのは全ての兵種の基本であり、彼らをいかに戦わせるかという事が一番最初の前提問題で、銃での撃ち合いで勝敗が決せられるようになっても、接近戦、肉弾戦の可能性は否定できず、それにも臆せず立ち向かう歩兵はいつの時代であろうとも要求される訳です。

 日本軍が精神論に偏って装備や補給を軽視したと言われちゃったりしますが、ぶるって逃げ出す兵隊なんて意味がないどころか有害な訳で、勇敢に戦う、銃撃の中でも臆せず行動するという事がいかに難しいか、という事を考えれば、当たり前なのかなぁ、と思います。ただ日本軍の場合は、物資、工業力不足まで精神論でどうにかしろ、と現場に丸投げしたところが大問題で(現代の会社、お役所組織でもありがちで、その意味で日本は何も変わっていないともいえる)、物資や工業力が他国に比べて劣るならば、それを前提に軍隊組織、戦術、戦略、政略を政治家や上層部が考えなければならないのに、背伸びした挙句に破滅の坂を真っ逆さまって印象が拭えない。教範の時も感じたけれども、本来誰が読んでもある程度の能力を得るような書き方をしなければならない教範を「詳しい事は教官、上司に聞け」みたいな出来で、その教官や上司の出来いかんで兵隊、部下の戦い方も変わってしまう危険がある軍隊だよな、とか思いましたね。

 それはともかく、例に取り上げられているのはドイツ、ソ連、イギリス、アメリカ、日本の陸軍についてで、大枠で各国に差がある訳ではないよな、と。ただ装備面や編成面ではお国柄を反映しており、たとえばイギリスやアメリカ以外の国は最後まで機械化(兵員輸送に装甲車両を用意できるか)はできなかったし、イギリス軍は最初から編成面で余裕がない。これはイギリスが徴兵ではなく志願制を戦前にとっていた名残、なのかな?人的資源に余裕がない印象があります。

 意外にもドイツ軍は長年東部戦線で戦い続けたソ連軍の攻勢には対応して有効な反撃ができるのですが、西部戦線英米軍に対しては対応できずに戦線が崩壊しています。やはり機械化、無線装備、各兵種の有機的な結合力が物を言ったのかな、と。

 他にも装備の優劣はともかく、戦車部隊を比較的温存していた日本軍は、練度の高い部隊が多く、個々の戦いでは健闘していたようです。

 この本には関係ないけれども、ふと、以前見たTwitterの内容を思い出しました。ウクライナの人が韓国の人に「君たちは本当に過酷な植民地支配を知らない」とかなんとか。これは何も日本が植民地韓国を平等に扱ったとかの話ではなく、動員されたり、意図的に農作物を買いたたかれ大量の飢餓死に追い込まれた事がないってだけの話で、特に動員の話はソ連軍と日本軍の兵隊に対する考え方の違いによるよな、と。兵士に最低限の練度しか求めないソ連は大量動員をかけますけれども、基本的に兵士の質にこだわる(大量動員できるだけの物資がないともいえる)日本軍は強制的に植民地人を徴兵する発想がなかったとも言えます。どうでしょうね?

 そーんな事も考えながら読み終えました。