pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

自分的には『遺作』

 自分の遺作ではありません(まだグッバイしない)。2020年に永眠された小林泰三さんの作品です。文庫化を待っていたのです。

 

 解説を書かれた編集者の方の言では、「まだまだ書ける」という事を小林さんは闘病中におっしゃっていて、ネタも『かぐや姫殺し』『赤毛のアン殺し』とおとぎ話、童話とされるもののヒロインが存在する限り続き、最終的には『鏡の国のアリス』が題材となった作品で終わる予定だったそうです。読みたかったナ。

 知らなかったのですが元ネタの『ピーター・パンとウェンディ』、アニメや演劇化されたものは、物凄く優しい世界に、口当たりが良くなっているんですねー。原作小説はエグい。海賊や赤膚族はもちろんの事、ピーター・パン率いる迷い子たちも殺し殺され生きている、ネヴァーランドは修羅の国。それを反映させたこの作中のピーター・パンは天真爛漫で忘れっぽい殺人鬼。思いやりとか慈しみとか、そういう言葉は未収得な奴なので、まぁヒドイヒドイ・・・こんなヒドイ奴に、良くもまぁヒロインたちは夢中になるもんだと思うけれど、物語とはそういうものか。

 殺されるティンカー・ベルも結構いい性格だと思うけれど、ピーター・パンに殺されるよりも酷いことされても、それでも彼を慕う姿に涙が出そうになる・・・出ないけど。その挙句に殺されてしまう。その犯人を捜すという事なのですが、今回は今までのシリーズと異なり、おとぎ話世界の因縁ではなく、現実世界での因縁で殺人事件が起きている。しかも本来殺されるべき相手ではないティンカー・ベルがグッバイされてしまったのが可哀そす。まぁ設定上、おとぎ話世界が真で現実世界が夢みたいなものなので、おとぎ話世界のキャラがグッバイされないと現実世界のキャラもグッバイしないし、現実世界のキャラがグッバイしても、おとぎ話世界のキャラがグッバイしない限り現実世界キャラの時間が直近の目覚めまで巻き戻り、グッバイがなかった事になるのですけれども。

 今回はその設定が効果的に生かされる結末でしたね。おとぎ話世界ではいい奴だけど、現実世界ではロクデナシというケースは初めてかしら。だいたいおとぎ話世界のキャラがロクデナシで、現実世界はまだ理性を持った酷い奴って描写が多かったから。どっちにしろ、酷い奴・・・

 小林泰三という作家さんの事は、好きだけど購入するほどではないって関心だったのが十年ほど続き、このおとぎ話のシリーズから文庫版を買う事にした・・・いや、違う『天獄と地国』を買っていたわ。まぁSFやホラーや推理ものの狭間にある作風のうち、ホラーものというか不条理ものが自分はそれほど好きではないので(ちゃんと伏線とか辻褄を全て合わせて欲しいと思う人)、そこを敬遠して読みたい作品を選んで購入していました。

 それもこの作品で自分は最期かも知れません。過去作で購入していないものを買おうと思い立つかも知れないけれども。SFでこの方の作品を知ったから、SF作品ばかり狙っていたかも。

 没二年が経過しましたが、改めてご冥福をお祈りします。好みの作品を世に出し続けていただいてありがとうございました。