pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

緊迫感がないとアカンのか

 昨日は楽しい読書感想みたいなものでした。今日は、やっぱり腹立たしくなるというアレな感じです。

 

 山下奉文って将軍、『有名、有能』って評価なのですが、評伝を読んだ事なかったので小伝、概略でもいいから読みたいと思ったのが購入動機でした。んで読み終わると・・・ほんとこの時期の話を読むと、腹立たしくなるんよな、マジで。

 本の趣旨としては太平洋戦争で活躍した将校の小伝を綴ったものですが、米英、日本のコマンドカルチャーの差というのが理解できるものになっています。英米士官学校、軍大学というメインルートの出世街道とは別に、現場で優秀な指揮官を将官に引き上げる別口のルートというものが存在し、大学出でも一兵卒から始めた人でも将官になるケースがあるのですけど、日本では士官学校の卒業席次順に出世するという、既得権者が得をするというシステムになっていて、これが個人のみならず組織の思考硬直に陥っている、と。

 なので日本の士官たちは教科書が取り上げる状況に関しては優秀だけれども、そこから外れるとガラガラと崩れていくという『秀才』タイプばかり。現場の状況が教科書通りになる方が珍しくなる(つまり日本が主導権を失い始める)と、脆くなるという。

 あと日本の工業生産力が列強に比べると脆弱だった時代、第一次大戦という総力戦、戦術よりも工業生産力の多寡、優劣で勝敗が決まるという現実を直視したくなくて、精神論に走ってしまい真面目に総力戦=消耗戦を研究しないとか。精神論に逃げたのですな。

 それと東条英機のように軍人というよりも官僚、宮廷政治家みたいな人間が増えてくる。天皇に対して絶対の忠誠を誓うけれども、自分の都合がいい状況を作り出す為、政敵となれば相手を適性がなくても最前線に送るとか。そのせいで重要な局面なのに例えば航空基地に歩兵指揮の専門家を司令官にするとか、君らは真面目に戦争に勝つつもりがあるのか?というような人事を行ったりする。

 こういう状況になった事を著者は第一次大戦の結果、ロシアという仮想敵国がいなくなり、中国も分裂傾向となり、日本を直接脅かす存在がいなくなってしまった事をあげています。つまり、目的を見失ってしまったのですね。一応仮想敵としてアメリカを設定しなおしたらしいけれども、しかし太平洋を横断する能力などないし(その能力を得て積極攻勢に出る発想はないのかな?)、日本近海で迎撃する発想しかない。陸戦にしても大陸が混乱しているから優勢な陸軍国がおらず、従来の戦術、作戦、戦略から逸脱する必要もない。目的意識もないから軍縮にも反発が強くなる・・・既得権益への挑戦と見てしまったみたいな。

 知りたかった山下将軍にしても本来は軍政畑の人間で、調整型の政治家タイプだったけれども226事件での穏和な対応が信頼する重臣を殺された昭和天皇の逆鱗に触れて中央からすっ飛ばされてしまったとか・・・まぁ昭和天皇からすれば協力して政局を運営してくれる教師みたいな存在を殺されたのだから、殺した連中に対して温情を施すなんて何事か!!になったのでしょうけれども、山下奉文という人物がもしも軍政の要職についていたら、状況は変わっていたかも知れないという評価もあり、なんともかんとも。そんな人物が陸軍の栄光(シンガポール陥落)と惨劇(フィリピン攻防戦)を指揮し、復讐的裁判で絞首刑になってしまったというのが、やりきれない。軍政にも戦術にも有能って日本軍には稀有な存在なのに、戦後に生存されて、その分野の論述でも残されたらどれぐらいの功績になっただろうか・・・ま、書かない(書けない状況)かも知れませんけど。

 目標を見失った組織は既得権益確保に走り、そうなると腐敗してしまうというのが日露戦争後の日本だったのかも知れません。そして1990年代からこっちの日本もそういう状況かも知れないと思うと(既得権益者を守る体制に徐々に移行しているように見える)、自分が八十をこえる頃には日本はまた破滅を経験するかも知れないなぁ、と暗澹たる気持ちになりまする。気のせいならいいけれど。