pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

教範は教範・・・

 昨日も書いたけれども読み終えたので感想の続き・・・みたいな。

 

 同じ著者の方の『イラストでまなぶ!用兵思想入門』の現代編を待っているのですが、なかなか出そうもないので、んぢゃあ、こっちでも読もうと何気にポチッとナ、してしまいまして、読みました。

 取り上げられているのはフランス、ドイツ、ソ連、日本。どの国も1930年代半ばまでに、次の戦争を睨んで士官学校とかで教える教科書をつくったという事なのですが、お国柄、思想というのが良く表れています。

 フランスは陣地戦前提の話で理論的。では防御的なのかというと、攻撃しないと勝てないという意識は持っているし、というか攻撃的な考え方だし、教範で『場合によっては死守しろ』と明記しているのはこの国だけ。ただ第一次大戦の陣地戦を意識しすぎて「どうやろうが全部正面攻撃にしかならない」と考えていて、運動戦・・・機動戦を考えていないという。なんでも計画して整然と運ぼうとして、一時を争うような場面を想定しない。理論書でありハウトゥー本ではない、ということ。

 ドイツは陣地戦を部分的に克服した浸透作戦を基本に置いており、戦果拡張を前線の穴を大きくするのではなく、敵後方に進行して砲兵陣地、司令部を叩いて前線を孤立させ混乱させる。そして後続部隊によって包囲殲滅していく事を教えます。戦闘指揮を創造性に満ちたアートになぞらえ、少数精鋭である事を末端にまで求めるのは、ヴェルサイユ条約保有兵力を制限されている身の上としては行きつくところですかね。

 これの応用が電撃戦だった訳ですが、戦術的視点を持っていても広範囲の戦略視点を持っていなかったと。あと現代戦の『遅滞戦術』の概念を持っていなかったともいいます。というか理論的に説明できなかったようです。

 四か国の教範の中で一番評価が高くなるのはソ連。革命で知識階級の多くが亡命したり、殺されたりしてしまって教育レベルが望めない人員を下士官、士官に登用せざる得ない現状から、その指揮能力を期待せず、事細かく「最低限これはクリアしろ」というマニュアルと化しています。そして仮想戦場がポーランド国境やら満洲やらで広大な平原、荒れ地であることから多方面の戦場を複合的に考えなくてはならず、防衛を敵戦力の拘束と割り切り、攻撃部隊に可能な限りの兵員と兵器、補給物資を集めて、敵を圧倒する戦力で撃破。さらに敵の砲兵、司令部、補給に至るまで可能な限り深く進み、相手を混乱させ、包囲殲滅するという縦深戦略を説きます。

 なので戦う相手はいつでもソ連軍が圧倒的物量で迫るという悪夢を見る事になります。防衛が敵戦力の拘束って時点で「遅滞戦術」概念を持っているっぽい気がする。事実ソ連は第二次大戦を勝ち抜き、またソ連崩壊までこの教範は使用されました。これ書いた人々は優秀。ま、たぶんスタリーンの粛清で殺されちゃったかも知れないけれども。教本化する事で人は亡くなっても思想は残る、という事なのか?

 著者は日本人ですので以上三国の教範は当時の日本軍人が翻訳しているものを使用しているのですが、つまり日本陸軍の将校は上記三つの教範を読んでいて、自分たちの教範を書いた人々がいるのですが・・・著者の読むところ、他の国のいいとこどりで理念というものがないようにみえるそうです。あと一般論が多く、これを読んだだけでは何をやっていいのか判らない。これは本だけでなく実習、口伝で教官が教える比重が大きかったのではないかと著者は推測していますが、自分は機密保持のつもりではないかと思ったり。ソ連の教範は陣地の設営、敵との距離、全て数値化していて、つまりそれを読めばソ連軍がどんな陣地を築くか、どんな戦法で戦うか丸わかりなんですよね。まぁマニュアルだから。なので自分たちが他国のいいとこどりをしたように他国も自軍の教範を読んで対策する可能性がある訳で、それを恐れて具体的な事はほとんど書かなかったのではないかなーっと。

 その割に負けているけど。

 日本陸軍ソ連陸軍を仮想敵としていてるので、その教範への対抗措置をしなければならない訳ですが、その結論が、とにかく攻勢。偵察による情報収集もそこそこに、攻撃しろ。とにかく攻撃。その精神が大事!!と唱えていまして。それはソ連の攻勢が敵軍を圧倒する戦力の集積から始まるので、これに時間がかかるだろう。なのでそうなってしまう前に戦闘状態にしてしまえ、という事ではないかと自分は思いましたね。

 そのせいで準備不足、情報不足で仕掛けて負ける場面がしばしばあるのですが。

 こう見ていると、教範もお国柄を表しているなーっと言う事ですかね。

 旧日本陸軍ってほんとに、なんか、こう・・・肝心なところでアレだよな・・・