pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

酒見さん、孔明お好きでしょう?

 ハードカバーの単行本でP500こえ五冊の大作を読み終えました。

 

 自分、『三国志』って小学生の頃から読んでいるんですけれども、岩波少年文庫版を読んだ時から「なんで主人公然とした劉備サイドがこんなに弱っちいの?なんで?」と思っていたのですよね。結末は三国のどのサイドでもなく、魏の母屋を乗っ取った司馬氏が、へろっと独り勝ちしているし、大作を読み切ったという満足感を別として、最初からもにょっていたのですよ。

 その後、正史『三国志』はもちろんのこと、様々な研究者の文章を読んで思った結論が「これは曹操が主人公、劉備敵役の方がいい物語だよな」でした。『三国志演義』ではいいもんとして描かれる劉備たちですが、ちょいと距離を持って読めば連中、何度も裏切りを繰り返すわ、戦争には負け続けるわ、極めつけが荊州からの撤退戦。何万という住民を引き連れて曹操軍の精鋭部隊から逃げるという奴。住んでいる土地を捨てて劉備についていく積極的な理由なんて何処にもない。劉備よりも曹操が酷い支配者という事はないでしょう。かえって劉備について難民生活した挙句、戦闘に巻き込まれて悲惨な事になるだろうに、それを許す劉備の『仁義』って一体なんなのか?とまぁ嫌な印象が募るばかり。諸葛亮も『天才軍師』と割に火付け、待ち伏せしかやらないし、肝心の政略、戦略では後手に回ってうまくいかないし、南蛮征伐以外に目立った軍事的功績もないし、なにこれ?という気持ちが強かったのですよね。

 そういうのを明確に文章化してくれたのが、この作品。表題から孔明が主人公の話かぁ、また劉備の仁義とかそういう胡散臭いのが前面に出てくる、いつもの奴か~と思って読まなかったのですよね。んで酒見さんが亡くなって、『墨攻』を読んだら面白くて、なら『泣き虫弱虫諸葛孔明』も読んでみようと全巻借りて読んだら、なんかね、自分のもやもやを吹っ飛ばしてくれるぐらいの、胡散臭い孔明、自分本位の癖に魔性の魅力で人々を惑わす劉備、自分の規範以外では動かない関羽、飲酒と殺人大好き張飛、真面目で純真だけど、やっぱり殺人者の趙雲・・・ろくでもない奴ばっかぢゃん!!(大歓喜

 一番やばいのは彼らの誰一人悪気がない。その癖、多大な迷惑・・・曹操に至っては天下統一の機運を失わせるという大損害を被っている・・・を振りまいているって感じ。主人公の諸葛孔明に対しても著者は容赦なく「気持ち悪い」「変人」と容赦ない・・・けれどもいざ彼らが亡くなると、しんみりしているんですよね。手のかかる子ほど可愛いみたいな、そんな感じなんですかね。曹操は優等生だから、彼がデキる人だって解っているでしょ?でも劉備陣営の人たちはデキないくせに人気が不思議とある。そんな魔力に著者もヤラれている感じなんですよね。

 この作品、構えた文章ではなくて、物凄くフランクなんですよね。文章中に『残酷な天使のテーゼ』の歌詞をもじった部分がでてきたり、時事ネタとかアニオタネタとかに絡んだ文章が前半ほど多く出ていて、笑いながら読んでいました。登場人物への突っ込みは最後まで多かったナ。ちなみにこの作品、常識人ほど不幸な目に合っています。最終的勝者の司馬懿も『変人』評価だしな。

 分量が多いから気合がないと読み終えるのは大変ですが、楽しい本なので三国志好きにはお勧めしたいです。たぶん劉備孔明フリークは激怒すると思うけど(あ