日ロ平和条約の前提条件である『北方領土』の返還交渉が日本の徒労に終わるのが何故なのか、自分的には「大陸国家は寸土でも国土(占領地)を失うのを嫌う」っていう感情論かと思っていたのですが、もっと切実な問題だとこの本を読んで理解しました。
まず最初に言いたい事。朝日新聞出版さん、校正して。誤字というか脱字というか、色々とツッコミどころが一杯あるです。文章内容に対してではなく、まぁ色々と。ちゃんと目を通して、二版以降は直すところは直してください・・・
んで内容はですね、ソ連時代から現代ロシアに至るまでの極東太平洋艦隊を中心に『超大国』ロシアの核戦略について語られている訳ですが、ソ連がアメリカの核兵器に量だけでなく質(運用)についても追いついたのって、1980年代になってからなんですね。もうソ連崩壊直前ぢゃん。核兵器っていうと大陸弾道弾みたいな大気圏離脱できるぐらいの大型ロケットを想像してしまうのですが、それってある意味固定砲台で、もう位置ばれているから先制核攻撃に撃破されてしまう可能性が高い。んぢゃあ報復攻撃はなにでやるかというと原子力潜水艦から発射する核ミサイルなんですね。乗組員のストレスとか水や空気、食糧の補給を考えなければほぼ無限に潜水し航行できる存在。秘匿性も高いし移動可能なので、陸上移動の発射台と比べても優秀。
ただしロシアにとっての敵役であるアメリカや日本にも対抗手段があり、対潜攻撃能力は、おそらくこの二国は世界トップレベル。公海上に出れば航路を把握され、戦争状態になれば即座に攻撃にさらされる可能性が高い。なのでロシアの原潜は基本領海内を回遊している感じ。それが極東ではオホーツク海であり、ソ連崩壊以降、多くの艦船を維持できず放棄してきたロシア海軍の海上戦力はアメリカ太平洋艦隊に対抗できないほどの数的劣勢状態。これでカムチャッカ半島から千島列島、北海道で囲まれているオホーツク海を守らなきゃならないとなると、対艦潜水艦を出撃させるとか、地対艦ミサイルとか、航空部隊とかを千島列島に展開して敵艦隊のオホーツク海への侵入を阻止しなければならない。となると日本の北方領土はその防衛基地の南端を担う訳で、もはや膨大な戦略核兵器のみでしか『超大国』たりえないロシアにとって、日本の北方領土は国防のみならず『超大国』の体面を保つためにも重要な防衛線ですよね。これを日本に『返還』するには少なくとも日本がロシアの核の傘に入って、対アメリカ戦を戦える同盟国にならなければならず、シーレーンが生命線である日本にとってはできない相談。
となるとロシアにとって北方領土が手放しても構わない辺境になるとはどういう状況か、というと、ロシアという国家がウラル山脈以西のヨーロッパ国家に縮小して極東に領土を持たない状態か、もしくは核兵器が放射線を発生するだけの厄介な代物になるか、しかないと無理かなぁ、と。まぁそんな時代がすぐに来るとは思えませんけどね。
あとアメリカって結構重要な機密がソ連に漏れていたのねーっと。それも大した金額が報酬として支払われた訳ではない。原爆技術のソ連への流出でもそうだけど、アメリカ人って自国のことを信じていなくて、世界の均衡を保つためには外国に技術が流出してパワーバランスをとる方がいいって思っている人が少なからずいるって事なんですかね。気持ちは分かるし(自分も日本国政府というものを全面的に信用するかと言ったら、そんな事はないし。彼らは彼らの理屈で国民を保護している訳であって、彼らにとって不都合な人は国民のカテゴリーには入らない、入れたくないだろう事も)、自国政府への不信、批判、監視の気持ちが国家を健全たらしめる、とも思ったりもするし。
そーんな事をあれこれ妄想できる一冊でした。