pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

また不愉快になる

 ハル・ノートに関する本を読み終えて、ほんとこの時代の事を読むと、だいたい不愉快になるんだよな。

 

 日米開戦をした日本にとっての『免罪符』ハル・ノートの事、ほとんど真面目に読んだことなかったので、図書館で『ハル・ノート』と検索して関連図書を読んでみようとしたら、これぐらいしかヒットしませんでした。読み進めると、まだその経過を説明できる資料が見つかっていないって事もあるみたいです。この本が書かれたのは『ハル・ノート』の前段階の試案の試案でソ連の諜報員が関わっていたのではないか、という資料が出てきたから、ご本人が存命でソ連諜報部のアプローチを生の声で聞けた、というのが大きいようですが、どうも陰謀論者が望むようなアメリカの意思決定の裏側にソ連の策謀が、というものでもないようです。

 本の内容は開戦に至るまでの一年間にわたる日米交渉をたどるものですが、何というか、両国とも杜撰ですね。松岡洋右とホーンベックという頭はいいけど、他人の意見を聞かない、不都合な情報には耳をふさぐ傾向の、そして互いの国に『偏見』を持っている男たちが外交の主導権、あるいは諮問を行っていたというのが不幸の一つ。またそれ以外の人々も互いの国をそれほど良く知ろうとしていない感じ。

 日本にとってのアメリカは開国のきっかけであり、憧れの消費文明の国って感じで勝手に憧れと親近感を持っているけど、アメリカにとって東アジアにおける日本は中国ほどに大きなインパクトを持っている訳ではない。松岡洋右は幼いころアメリカ留学した記憶からアメリカ人は強者しか尊敬しないという印象のもと、強気の外交を展開し、アメリカに対して優位に立つために実効性の乏しい三国同盟を選択しますが、アメリカ外交は理想主義の保守であり、過去数千年東アジアで中心国であった中国を重視する姿勢を崩していない。

 またアメリカにとって日本は平和を口にしながら、やっている事は侵略的な拡張主義で戦争を拡大する、つまり言っている事とやっている事が異なる『嘘つきの国』というのが昭和初期日本の印象。これは行政府が軍部をコントロールできない大日本帝国憲法の欠点で、その事をアメリカも重々承知しており、文民を中心とした和平派が存在している事は知っているけれども、軍部の暴走をコントロールできないだろうと悲観的に見ています。

 日中戦争を受けて行われた鉄や石油の禁輸処置に対しても日本にはジリ貧絶望感しかないのですが(それを解除してもらう為の交渉でもある)、アメリカ側は今が日本の力が最弱になった時期という判断で、時間の経過とともに力を取り戻すとみている。つまり別の交渉相手から鉄や石油を調達するだろうと見ているのですよね。日本、考え方が硬直していない?

 アメリカが日本を決定的に敵視したのは日本軍による仏印進駐だったのですが、日本はヴィシー・フランスのかわりにベトナムを管理してやる、ぐらいのつもりだったのですが、フィリピンを植民地として持ち、シンガポールの英軍、その先のインドと防衛線を結んでいるアメリカからするとアジアにおける自分たちの拠点の対外に準敵国、少なくとも敵国ドイツの同盟国が出てきたという事で危険信号が燈るのですが、その事を日本まったく理解した様子がない。

 しかしアメリカとしては、まずヨーロッパの戦争を解決してから日本と対決するというのが最初の考えで、ソ連のアプローチもその線でした。そらね、ソ連からすれば武器弾薬、その他資源をアメリカから支援してもらい、日本に東側から攻撃されない事が望ましい訳で、どちらかというと日本に有利な条件を提示させようとしていたという、悪い事は全部ソ連のせいにした向きからすると皮肉な感じ。アメリカに東アジアで戦争されたら支援リソースが減るとも思っていたし。アメリカにしても太平洋は裏側というイメージで、大西洋に比べれば優先度が下がるし。歴史的なつながり、交流、経済的なつながりはやっぱりヨーロッパが一番深い。

 アメリカが開戦やむなしと判断したのは仏印への軍隊の移動でしたが、これは駐屯軍の交代みたいな感じであり増強ではなく、それはアメリカ側にも解っていた筈なので、これがきっかけで態度がより硬化したのは間違いないのですが理由が不明。

 んで渡されたハル・ノートですが、日本が「酷い」「絶望した」「戦争しかない」と判断したものなんですけど、その理由が中国からの撤兵というくだりなのですが、ここ、今までの交渉の中で中国と満洲は分けられて使用されており、必ずしも中国大陸からの全面撤兵を意味していないだろうと言われています。ただそれまでの交渉では満洲を含まないと但し書きがされていたのが、その文言が抜け落ちていた事が過失なのか故意なのか、それは解りません。ただ日本側は短絡的に、この中国の文言の意味をただすことなく決裂と判断したと。実は日本側は戦うならこの時期以降は無理であるとして最終交渉期日を決めた上で望んでいて、暗号解読でアメリカ側にもばれていたのですが、さらにハワイを急襲する為の機動部隊を既に発進させていたのですよね。んで交渉が妥結したら引き返すと・・・交渉が継続するという状況をないものとしているのですよ。そうなると機動部隊の存在が明るみになった場合、大変困るし(補給の問題とか)。だからこれは自分の心証なのですが日本の政府、特に軍部は相手の文章によって戦争を決断する事で、日米和平交渉という望みの見えない行為から解放されたくてほっとしたのではないかなぁ、と。だから交渉継続に繋がりそうな文言の確認すら、無意識にスルーしたのではないかと。

 まぁアメリカも戦争を誘発する道具としてハル・ノートを使う事をギリギリで決定したみたいです。その文章を手渡す前々日ぐらいまで日本に対して仏印撤退を条件に禁輸緩和を持ち出す案とかも考えられていたので。何が開戦誘発に踏み切らせたのか、決定的な証拠はまだないようです。

 こんな感じで『ハル・ノート』のせいで開戦した、というよりも、互いの国を誤解しているし疑っているし、長すぎる不毛な交渉に倦んだ結果、辛抱溜まらず日本側が殴り掛かった。その行為の規模がアメリカの想定を上回り(海上での小競り合いを期待していたみたい)、まさか太平洋艦隊主力を撃破されるとはアメリカ側も信じたくなかった(情報は入っていたけど、日本にそんな力はないと例のホーンベックくんが無視していた可能性がある)ってのが近いところではないかと。交渉継続を望んでいる方が、絶望した人間が殴り掛かってくるって心理が理解できなかったのかな。

 まぁ結果的にアメリカとしては日本が『騙し討ち』してくれたので世論を戦争に導く事ができて大助かりな訳ですが(日本側も外務省が出先大使館に妙な負荷をかけて宣戦布告文章がアメリカ政府に渡るのを故意に遅らせたのではないか、という疑惑がある。奇襲作戦成功の為に)、なんていうか、アメリカ側もそうだけど日本側も無邪気なほど楽観していて、自分たちの国が軍部のやらかしと、それをコントロールできない政府という、まったく信用に値しない国って思っていないところが、なんともかんとも。

 別の本で明治期に外国の軍人が、日本の軍人は楽観的に過ぎるって、ゆーとったって書いてたな。そういう病理なんですかね?

 しまった。あまりにも腹が立って通常の三倍も書いてしまった・・・