pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

比較しています。

 この本自体は十年ぐらい前の出版なんですが、それでも研究者と小説家の違いが分かって面白いです。

 

 半ば並行して塩野七生さんの文庫版『ギリシア人の物語』二巻を読んでいるのですが、登場人物が同じでも扱いが異なります。まずテミストクレス。この人は民主政とは言っても指導者に選ばれるのは名門貴族がほとんど。人脈と資金力、そして名望がありますから選挙でも有利になるし、無給である政治家になっても生活に困らないですから。そんな中で初めて非名門貴族で指導者になり、しかもペルシア戦争を主導し、非海軍国であったアテネに二百隻規模の艦隊を整備し、サラミスの海戦でペルシア海軍を破り、アテネの覇権時代を切り開いた人物として、その界隈では著名な人です(自分はそんなに知らんかった

 んで描き方がですね、この本になるとその活力源が嫉妬であるというんですよ。羨望というか何というか、まぁ富裕層とは言え平民の人で名門貴族の閨閥に入れなかったのが悔しかったみたいな。その悔しさをバネに次々とその後のアテネの繁栄の礎となる施策を繰り出していくのだから、世の中判らない。

 あとはペリクレスとキモンの扱い。塩野さんは二巻前半をペリクレスに費やしています。たぶん塩野さん好みの男性だから、かも知れません。ペリクレスという貴族的な男がその弁舌、説得力で三十年間アテネ政界をリードし、その時代がアテネ民主政の最盛期という評価が通説なのですが、最近はどうも変わってきているようで、覇権国家アテネと民主政アテネの繁栄期は別物って理解が主流みたいです。繁栄というよりも民主政の成熟というべきか。逆にキモンという人はあんまり聞いた事ないのですが、実はテミストクレスが追放された後、アテネ海軍を指揮し、アテネエーゲ海制海権獲得に尽力したのが彼でして、その為、本の著者は一章を立てているのですけれども、塩野さんはアリステイデスという人物の方に注目していてキモンの扱いはそんなに重視していない。どうもキモンという人が正直で正論の人物というが塩野さんのお好みに合わないらしいです。アリステイデスがメインでキモンは現場責任者、みたいな理解をしている。

 まぁキモンって人はアリステイデスの死後一年後にペリクレスにしてやられて追放されてしまうので、政治的には頼りにならないと見えるのかも知れませんが。

 あとアテネ凋落の一因になったペロポネソス戦争ペリクレスが主導して開戦し、彼自身勝ち筋が見えて戦争でしたが、アテネ周辺の人々をアテネの城壁内に収納して長期戦を行ったのが、後知恵で言えば判断ミス。狭い城内に非衛生な状態で人が密集したら、疫病が流行するよね。その疫病で戦力を失い、泥沼の長期戦となってしまったのがペロポネソス戦争なので、ペリクレス、手放しには誉められないよな、と。

 それから塩野さんはスパルタの政体が好きではないのでそんなに重んじないのですが、アテネ海上帝国として台頭するまで、スパルタこそがギリシアの覇権国だったというのが著者の理解です。

 それからペロポネソス戦争に敗北して寡頭制を打倒してからが民主政の成熟期というのは、前に読んだ本と一致しています。こんな感じで研究者と小説家の記述を比較するのも楽しいものですね。