pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

作品を読んでからの方がヨカタ

 図書館で何気なく目についたので借りて読みました。

 

 遠い昔に『鼻』とか『蜘蛛の糸』とか『羅生門』とか読んだような記憶があるのですが、それから何も読んでいないと思います。名前だけは知っているって感じ。まぁ毎年『芥川賞』ってメディアがうるさいですからなぁ。『芥川賞』受賞作品って読んだこと、ないけど(あ

 自殺、それも神経衰弱が原因というのは知っていましたが、どうしてそうなったのか?というのが一番疑問だったのですけれど、なんとなーく理解できた気がします。

 同じような時期に夏目漱石の弟子になった内田百閒と比べると理解できるかも。内田百閒という人はどちらかというと権威主義で、見栄の為に金を使い、家計が回らなくなって借金をしても「借金は、君と僕の絆」みたいな事を言い出すおっさんなので、ストレスとか比較的少なかったかと想像できるのですが(なんせ亡くなったのは1971年。81歳。天寿を全うしたと言っていい)、翻って芥川龍之介はリベラル・・・というよりも真面目な質な人ですね。

 家庭事情も複雑で、長州出身で戊辰戦争の『英雄』である父親と江戸の幕臣家出身の母親。渋沢栄一の見込まれて牛乳業で成功した父親の浮気が原因なのか、母親は精神を病んでしまい子育てできない状態に。それで母方の実家に引き取られ、父親の後妻が母の妹になり、それで本人は母方の芥川家の養子になります。父親は龍之介を取り戻そうと画策していたらしいし、本人も父親の後妻を『叔母』としか呼ばないとか、なかなかストレス多そうな幼少期。

 他人にまねできないほどの速読力、理解力。学生時代に夏目漱石に激賞される文章力。物腰柔らかく、丁寧。支える家族は養父母に独身の伯母、妻に子供が三人だけど、内田百閒みたいな借金生活はしてなさそうです。少なくとも内田百閒=借金と連想されるようなことにはなっていない。同じ時期に海軍士官学校の語学教授をやっている(百閒はドイツ語。龍之介は英語)のですが接点はなかったようです。性格合わなさそうだもんな。律儀に受けた仕事は全部納品するし(百閒は締め切りぶっちも結構やっていた筈)、戦争とか日本の植民地政策にも批判的な目を向けるし(百閒は単純に喜んでいたと思った)、つまり真面目に生活しているんですよね。息抜きは読書ですかね。しかしそれも思考する事に繋がり、そうなれば問題提起をせざるを得ず、ストレスを抱え込む事に。

 致命的だったのは中国旅行ですかね。当時流行していたスペイン風邪に罹患して健康がすぐれなかったのに、それをおして憧れの中国文化に触れる為に長期旅行に。列強の植民地支配、自尊心を亡くした下層都市民、汚物まみれの大都市、中国の革命家、文化人たちとの接触。それらは著作の糧になったでしょうし、小説執筆専門とは言え新聞社の社員として中国に出かけているのでジャーナリストの視点でも中国の現状を捉え、批評、提言を行いますが、当時は検閲まっさかりなので、それを気にして慎重に文言を選び文章を書いています。これをストレスだな。

 結果が、不眠症、頭痛、原因不明の体調不良という、所謂『神経衰弱』という状態に。子供の頃は理解できなかったけど、体の不調を完全に癒す事ができない。眠いのに眠れない。頭痛を抱えたまま考えなければならない。そういう状態がいかに辛いものか、というのは、五十も過ぎれば想像できるようになりました。いや寝付くのは下手な時あるけど、不眠症ぢゃないし、軽い片頭痛を感じる事はあるけど、そこまでではないし、体調は、絶好調!ってどんな状態なのか知らんから解らんけど(え

 これが癒される事なく、数年続く。歳をとれば回復する可能性も減る。ストレスをためる生活をしている・・・となると、まぁ服毒自殺したくなるよなぁ。死ぬと決めてからは凄く穏やかな気持ちになったようですし、この人にとって生きる、生活するというのは極度のストレスを抱える状態だったのでしょうね。

 夏目漱石も晩年は精神やられていたようですし、内田百閒みたいに適当にストレス解消していないと、人間は精神やられてしまうって事なんでしょうね。

 次は小説読まなきゃ。