pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

中世初期アイルランド

 先日読んだ『アイルランド現代史』にちょろりと紹介されていた・・・と思い、そういうの、あったなぁ・・・と密林を検索したら在庫があったのでポチッとナしてしまいました。

 

 

 七世紀のアイルランドが舞台です。キリスト教は受容されているけれどもアイランド教会とでも呼べるようなもので。ローマのカトリック教会とは教義、教則が異なる部分があります。聖職者が結婚できるというのもその違い。アイルランド全体が緩やかな封建国家みたいな感じで、大きく五王国に分かれ、共通する法律の下で暮らしています。

 主人公はその中の最大の王国に君臨する国王の妹にあたり、修道女で法律家。上級裁判の裁判官を務める資格を持つ、王でさえ敬意を払う存在です。んが、そこは識字率は愚か、情報伝達さえままならぬ七世紀。二十代後半の修道女に外見上の解りやすい権威がある訳がなく、地方豪族、地主からは不審な目で見られたりもします。

 まぁ事件が起きて駆けつける探偵が、人々から胡散臭ーく見られるアレの変形バージョンですね。彼女の場合は理性的な分析、豊富な法律知識(空で条文をそらんじているので、ほぼ生き字引能力搭載済み)、そして公正な裁定で次第に信頼を勝ち取っていきます。ま、後ろ暗い事がない人に限りますけれども。つまり、彼女に対して敵対姿勢を崩さない奴は怪しい、と。

 その伝でいくと、日本語版最初に発刊されたこのお話は、ほとんどが後ろ暗い事を抱えている感じ。あと現代に生きているものとして中世の、異端排斥に血道を上げ始めるローマ・カトリックに対して、その非情面を攻撃しています。だいたい狂信的に描かれますよね、この時代のカトリックって。たぶんこれは現代アイルランド史に関係があって、かつてカトリック教義を重んじるあまりに中絶しなければ亡くなってしまう危険がある妊婦に対し、それを拒絶、批判した為に母子ともに亡くなってしまうという事例が多くあったので世論が変化したという事実があります。現代のアイルランドは日本よりもリベラルですね。

 物語は遺産分配の争いから始まり、殺された族長の事件を調査するよう請願された兄王の依頼で主人公が現地に向かうのですが・・・なーるほど。中世初期のアイルランド社会の雰囲気をつかむには解りやすくて面白いです。

 2000年代にこれが刊行されたとき、自分は『修道士カドフェル』の系譜なのかな、と思ってそっちを持っていたので、まぁいいか、と考えてしまったのですが、あっちは十二世紀の西部イングランドであり時代的に五世紀も過去。ものの考え方も異なるしカドフェルは引退した十字軍戦士ですが、主人公フィデルマは現役の弁護士、裁判官です。この立場、時代の違い、それに国の違いは面白いですね。そう感じたから順番に読んでいこうかなぁ、と。でも来月に最新刊が出るんですって?カドフェルシリーズより長くないですかね・・・