pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

厳しい業界、優しい人々

 機会があれば全作品読んでみたいという作家さんが何人かいます。深緑野分さんはその一人でして、文庫版購入派のアタクシはハードカバーやサイズの大きい単行本は図書館で見かけたら借りて読みます。これもようやく発見し借りる事ができました。

 

 密林の紙媒体はサイン本で、なーんかアレだったので電子版にしておきました。表紙絵からすると俳優さんの話かなーっと思っていたのですが、映像作品の特殊技術を担う関係者の話。

 最初は1948年、黎明期の特殊効果を用いた映画に心ときめかせ、落書きから始まって描くこと、そして映画の特殊効果に参加する事を夢見る少女の物語から始まります。しかし芸能界って表に露出している面はともかく、製作サイドは男社会だし困難が多い。大学を中退し、偏屈な造型師に弟子入りし、徐々に技術力で地歩を築いていくも、そして時代はSFXの時代になっても、技術者はスタッフロールに載る事はない。せいぜい所属事務所や会社名が載るだけ。

 主人公自身はアナログ技術者で、1980年代から始まるCGの進出に批判的、というか危機感からの拒絶を示し、また技術者として地歩を固めながら子供のころから温めてきたクリーチャーデザインを顧客のオーダーに反して作成した事で自らのキャリアを自ら閉ざし引退してしまいます。ここまでが第一部。

 第二部は2017年。今やCG全盛期。アナログは例外的な表現方法になった時代に、技術はあるし特異な能力もあるけれど、いまいち自分に自信が持てないCGアニメーターの女性が主人公。その所属事務所が第一部の主人公が最後に残したクリーチャーをつかった『名作映画』のリメイクに関わるところから始まります。

 時代や立場を越えて二人の女性の軌跡が交わるのですが、それよりも、CG効果の舞台裏、映像作品を製作する現場の舞台裏を覗けたのが面白かったですね。この作品は2016~19年に連載されたものですが、まぁ現状そんなに変わっていないでしょう。特に日本の現場が『じり貧体質』っていうのも、まぁ想像できるよねーっと。映画作品はある程度資金が投入されているから、まぁいいかレベルですが、TV放映が基本の作品は、最近見ているのは大河ドラマや深夜アニメ一本ですけれども、映画並みの予算を投じられる大河ドラマはともかく、アニメの方は・・・お金や時間をかけているところと、明らかに考える事を放棄した部分ってのが良く見える。まぁ自分が子供の頃のアニメだってそういう傾向にあり、その時代に比べればクオリティは格段にあがっているけれども、やっぱり見劣りする部分は見つけてしまう。

 時間や予算の配分ってマネージメントの担当ですよね。日本の映像作品って人気のある原作付きが多いから、物語的な部分では国内市場向けとはいえある程度の水準以上にある訳で、技術力、スキルもある。という事は視聴者が気を付けるところって、時間と予算配分の能力、マネージメントジャンルを見極めないとアカンのかなぁ、とか思うようになりました。『必要なところに必要なものを』っていう当たり前だけど難しい仕事です。おそらく日本企業の大半の経営者は部下に責任押し付けて胡坐をかき続け、結果、人材が払底し人手不足を嘆いているのではないかと思ったりします。つまり経営者がマネージメントしていないと。

 そんなところに考えが行ってしまいましたね。あ、タイトルは映像業界は厳しいけれども、この作品に登場する人たちの動機は優しさで始まっているって言いたかったんです。結果はともかく・・・まぁラストはハッピーエンドなので安心してください。