pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

海洋国家『アメリカ』

 現在のところ、世界の海の制海権を握っているのはアメリカ海軍な訳ですが、19世紀まではモンロー主義とか孤立主義とか、南北アメリカ大陸以外に関心のなかったアメリカが、外洋へ進出し大西洋のみならず太平洋の反対側にも目を向けるようになったきっかけがコレみたいです。

 

 日露戦争後の当時、軍艦の塗装はグレーが基本でしたが、それを目立つ白にさせて、親善外交である事を強調し十六隻の戦艦に(!!)艦隊組ませて世界一周させるという、とんでもない事をアメリカ海軍はやったそうでして、自分もこの漫画で初めて知りました。

 提案者は当時のアメリカ大統領セオドア・ルーズベルト。まぁ海軍に近いものほど二の足を踏む案ですわな。政治的、国防的、そして運営上の問題を考えればやりたくない。しかしルーズベルトは押し通し、実現させてしまいます。

 当時、こんな大規模な艦隊が世界一周なんてした事はなく、前例としてはロシアのバルチック艦隊がヨーロッパから西太平洋に周回して破滅的な最期を遂げた事ぐらい。当時の軍艦は石炭と水が必須の蒸気機関で動いていますから、これを効率よく補給できないと移動する事すらままならない。現にロシア艦隊はスエズ運河を利用できず(イギリス保護国のエジプトにあるから)、アフリカ大陸を回り込んでフランスやドイツの港、会社から何とか補給を受けて航行していました。

 今回のアメリカも国内外の商社と話をつけて随時石炭補給を受ける筈でしたが、杜撰な計画、天候不順による補給線の遅延、まぁトラブル続き。しかしこの経験はアメリカ艦隊を大きく成長させました。遠距離航海は乗員を退屈させるので、そして退屈させると精神をやられてしまうので、航海中絶え間なく艦隊運動の訓練をさせた結果、練度が向上。この航海に参加した士官の中から太平洋戦争を勝ち抜く提督が育っていきます。

 またヨーロッパでドイツに建艦競争を挑まれたイギリスは南太平洋の英連邦防衛まで手が回らず、日露戦争の結果から日本への警戒を強めていたオーストラリアやニュージーランド、そして南米諸国からはいざという時の安全保障としてアメリカ艦隊を歓迎するようになります。

 植民地フィリピンの防衛から近年併合したハワイの真珠湾に艦隊根拠地を建設しつつあったのですが、フィリピンだけでなく南太平洋の国々との安全保障を担うというインシアチブを取る事になります。このあとパナマ運河も完成しますから、白い艦隊の世界一周がアメリカの認識を変えたと言っても過言ではないかも知れません。

 そして仮想敵国候補になってしまった日本は・・・十六隻の戦艦隊の威容を見て大国として対抗意識を燃やすようになります。いや、自分とこの経済状況をちゃんと認識してくれよ、と思うのですけれども・・・あと、これを見ても日本近海の迎撃戦前提の軍艦つくっていて、作戦域が広がる可能性を考えていないというのも・・・はぁ。