pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

推しを書いていらっしゃる

 読み終えるのに苦労したのは、古代ギリシア史の記述が交差しているからでせうか?

 

 著者の塩野さんが好きなのは、ペリクレスとアルキビアデスだよね。というのが丸わかりな本です。だからこの本の前半はペリクレス、後半はアルキビアデスが主人公と言ってもいいくらい。しかし穀物や建材用木材をエーゲ海以北からの輸入に頼っていたアテネは、ペリクレスの前の時代から、マケドニアトラキアと交流があったし、つまり塩野さんがペリクレスの功績にしている植民都市アンフィポリスの建設も、その前から続いていましたから、贔屓の引き倒しってのはこの事かいな、とか思ったりしたり。

 あとこの本では開戦したくなかった感じで描かれているペロポネソス戦争も、ペリクレスの提案で、戦略で開戦し、ペリクレスの籠城戦で密になり疫病が流行し、戦力が激減してしまった記述も、研究者の文章に比べると、マイルドに、ペリクレスのせいぢゃないみたいな空気に変わっているのが面白い。

 そういえばこの本の帯、民主政を破壊したのはポピュリズムのせい、みたいに書いてあるのですが、どちらかというと帝国アテネの繁栄を破壊したのがポピュリズムであって、民主政は何度も復活しているので違うよねーっと。

 どうもこれはペロポネソス戦争以降の情けないアテネの政略、戦略、一貫性のなさを、衆愚政と罵った寡頭制主義者たちの文言を、フランス革命以後のヨーロッパエリートが、直接民主制の否定とか、参政権の制限の為の理由に利用していて、それが一般に定着したというが現在の研究者たちの見解らしいです。

 優秀な選良が凡愚な大衆を導くという幻想は納得しやすいけれど、『優秀な選良』が過ちを犯さない補償などどこにもなく、牽制、制限する存在がないと人間は暴走し、圧制を行いがち、というのは現在でもよくある事で、こういう論法を見ると近代ヨーロッパの『民主主義』って上からのシステムなんだなぁ、とか思ったりしたり。

 だいたいアテネの政略を提案したのは、その選良たちであり、アテネの民主政は自らも兵士として戦地に赴く『市民』が、選良たちの提案を選択するというシステムなんですよね。つまり選良たちの提案がろくでもなかった、という事でもあり、賢いとか愚かとかでは測れない問題ではないかと思うのですよ。アテネの寡頭制は圧制になり反対者の抑圧に終始して、結局崩壊しているし。

 その象徴というのがアルキビアデスという男で、美男で弁舌豊かで人気者だけど、放埓な性格なので敵も多い。才能豊かだけれども自己中心的なところがあり、ペロポネソス戦争中にアテネから死刑宣告されそうになって敵国スパルタに亡命。そしてアテネに不利な提案もスパルタにしてしまう、というキャラとしては楽しいけれども、政治家としては「ふざけんな!!」って感じの男。

 つまり、こういう男が頭角を現すアテネという都市国家の宿命みたいなものを感じるのですよね。有能だけれども放埓で、「高ころびに転げ候」って印象なのが。

 そんな事を頭の中で突き合わせていたら、読むのが遅くなりました・・・いや居眠りが激しくて読み進むのが遅かったとか、そんな事はないんだからネ!!(あ