pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

他人様に勧めたので

 他人様というか三十年来の友人に勧めたので、自分も久々に再読しようかな、と。

 

 角川選書から新しいのが出ているのかー・・・と思ったら、著者の方を見たら、あ、これは再版に近いかも、と思ったので、やっぱりこちらをお勧めしておいて良かったな、と。

 著者の亀田さんは足利直義が好きで歴史研究に入られたようですが、調べていくと、通説で言われている姿とは異なった姿が現れてきて「人間直義」という感じに理解してきた。みたいな事をおっしゃっています。たぶん知られている直義像というのは、鎌倉幕府北条義時、泰時期を理想として、その政治を誠実にプラトニックに目指し、兄尊氏を立てて、バサラな高師直一派と対立し高一族は滅ぼすも、尊氏、義詮父子との戦いに敗れ最後は毒殺された・・・かも?という話。

 しかし建武政権を倒すよう主導したのは彼だし(後醍醐天皇スキスキな尊氏は終始及び腰)、最前線でパフォーマンスをし、全軍を鼓舞する熱血ぶりを披露したり、自己陶酔型のパフォーマンスもしばしば太平記に記されているし、その後半生では鎌倉幕府体制から修正を試みたりもしています。

 初期室町幕府において無気力な尊氏を立てて主導したのは彼ですが、歯車が狂ったのは楠木正成遺児、正行の大活躍。直義が指揮し、差し向ける武闘派武将たちを次々撃破してしまい、最終的に高師直が出張って楠木正行を敗死させ、それどころか吉野まで攻め込み南朝の御所を焼き払うという武勲を立てたこと。

 これによって高師直の発言力が増し、それに焦った直義側が理不尽ないちゃもんをつけてしまったのが観応の擾乱の発端。そんな事されたら命を的に戦った連中は、たまったもんぢゃないですから。しかし政争に勝利した高師直側も、武将たちの要求に応えきれず直義派の反撃に孤立して敗北滅亡。この時直義は著者が禁じ手と述べた南朝への降伏をしてしまいます。これは直義がやっちゃいけない事でした。北朝皇室と親密で、その家長たる光厳上皇とも個人的に親密な間柄だったのに、その信頼を裏切る行為でしたし、この先足利将軍に反旗を翻す武将が気軽に南朝に下る風潮を作って、つまり南北朝の騒乱を悪戯に長引かせる要因をこさえてしまったという。

 ただ本人の立場からすると、兄尊氏と対立、争うつもりが毛頭なく、周囲からその立場にされてしまった後(たぶん高一族を排除したら元通りと思っていたのだろうけれど、尊氏や義詮の反発は直義の想像以上だった。ただし彼らも直義個人への敵意というよりも、そういう事をさせた連中を許せないという印象で、直義の法要は百年以上に渡って継続されているので、義詮が直義嫌いというのは、反高一族に祀り上げられた直義が許せなかったというぐらい。義詮も怨霊対策もあるのか直義の法要は熱心に行っている)、絶望して無気力になっているのが明らかに解る。観応の擾乱において積極的に戦陣に立つ尊氏とは対照的に、はるか後方の本陣から動かない直義。建武政権打倒までは常に先陣に立ち、パフォーンスを欠かさなかったのに、明らかにやる気がない。

 なので最終的に敗北し、政治的立場を失った直義を尊氏があえて暗殺する理由はなく、著者は病死説を支持しています。

 足利直義伝記では一番バランスが取れているんぢゃないかなぁ。友人は三十年以上直義が好きな人なのですが、直義の実像も愛して欲しいなぁ、と思いましたが・・・一般人向けだけど改めて読むと歴史用語多いな。当たり前か。歴オタという人ではないので挫折していなければいいけど・・・