pomtaの日記

だいたい読書感想か映画感想です。たぶん。

ほっこり

 先日、この作品を「ほっこりする」と評したら、ドン引きされました。

 

 気持ちは分かる。自分もそうする。それなのに何故「ほっこりする」と評したのか。まぁドン引きしてもらう事を期待した事もあったのですが(オイ)、こういう一般兵が過酷な環境に晒されて、善とか悪とか関係なく、運不運のみに左右され無慈悲に殺されていく戦場描写に、自分が嫌悪とともに安心するという複雑な心理状況があるのです。

 自分は戦争反対論者なんですが、はい、そこ、怪訝な顔をしない。戦争反対を唱えるよりも、実際戦争が起こったら、どんな悲惨な地獄が展開されるのか。隣人愛を唱える人も生き延びる為に、望むと望まずとに関わらず、いかに非人間的な行為を行わなければならないのか、そういう事を体感、実感した方がいいと思うからです。こんな悲惨な事を行う、される戦争というものが、いかに避けなければならないものなのか、という事が理解できる。

 暴力を振るうという事は、格好いいよりも無様で血みどろで、汚物まみれになるという事を知らないと、『正義』の味方が『悪党』をぶっ飛ばす爽快感が虚構とは言わんけど、物事の一面だけ見ている気がして、なんか気持ち悪いんですよね。こういう風に、あからさまに書いてくれる戦争ものは安心?信頼?といいますかね。人に迷惑かけているのに人に慕われる劉備とか言う奴が主人公やっている『三国志演義』よりも、よっぽどいいです(あ

 今回、敗戦に近い形で絶望的な防衛戦となります。時間稼ぎの負け確。それでも軍人は命令とあらば戦わなければならない。逆らう事は許されないし軍人ではない。上層が何か起死回生の策を講じていると信じてやらなければならない。ま、そんなものはなく、主人公、丸裸にされた挙句に貞操の危機にさらされるのですが、他の小説なら、すぐ出てやられちゃうような、いい加減で兵隊としてははた迷惑な奴と地獄の市街戦を逃げ延びます。命令にさからった徴用兵は案の定、大怪我を負いますが。

 血反吐を吐きながらこさえた時間を政府は有効活用できず、無条件降伏するという最悪な結末を迎える筈が、何故か敵国がそれを受理せず(確たる理由が見いだせず、戦場の霧というか、不明のまま)、絶望の戦争が継続される・・・と思ったら、主人公たちとはまったく異なる戦線で、政府の政略とはまったく異なる次元で、味方が敵を撃破し、侵攻してきた敵の補給が危機に陥るという事態に。

 他の戦争小説なら、ここから大逆転、助かった!!って展開なんですが、この小説は「ここで負けておけば、更なる地獄の扉は開かれなかった」みたいな書き方をしていて、おおう!!すげい、すげいな!!当たり前か。十年も塹壕戦をやっていた双方に、相手を圧倒する戦力なんてある筈ないし、相手は退却しただけ。ここから戦争継続って、それまでの地獄がやっぱり続く展開しかないもんね。『戦場の天才』は兵士の厄災みたいな書き方がいいですね。

 残念なのは鬼軍曹さんがグッバイしてしまった事で、そっか。そうぢゃないと主人公が活躍する場が、つまり最初の題名が「衛生兵さんの成り上がり」だったそうなので、その成り上がり要素が描くのが遅くなるので、使える上官は退場していただかないと、って事なんですかね。

 ああ、更なる地獄が続いてしまうのですねぇ。ほっこり(こんな事書くからドン引きである